海の祭レポート

【コロナ禍の海の祭】「楽しさ」を共有し、「繋がり」を未来に託す

姥神大神宮渡御祭(江差町) 開催日:毎年8月9,10,11日

北海道江差町で毎年8月9,10,11日に開催される姥神大神宮渡御祭は370有余年の歴史を誇り、北海道で最も古い祭りとされています。

令和2年度の姥神大神宮渡御祭

北海道江差町で毎年8月9,10,11日に開催される姥神大神宮渡御祭は、北前船によってもたらされた京都の祇園祭に強い影響を受けて始まりました。その歴史は370年にも上り、北海道で最も古い祭りとされています。3日間かけて13台の豪華な山車(やま)が町中をねり歩き、毎年、就職や転勤で町外に出た方、転勤で江差町にやってきた方、仕事や知人をきっかけに毎年お祭りに来ている方など、様々な人が集まり、江差一番の盛り上がりを見せる日となります。海の祭ismプロジェクトでは2019年に祭りを取材させて頂きましたが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、令和2年度、令和3年度は神事のみの縮小開催となりました。2年連続で本来の祭りが開催できなかった地域の様子と担い手の想いを楠公山(なんこうやま)の磯田さん、林さんに伺いました。
 
話し手 :磯田さん 林さん(楠公山)
聞き手 :一般社団法人マツリズム(大原、藤井) 

オンラインインタビューの様子

ニシンと文化が集まる港町

江差町は北海道の南西部、渡島半島の日本海側に位置する、北前船交易で栄えた港町のひとつで、江戸期のニシン漁最盛期には「江差の五月は江戸にもない」といわれる程繁栄を極めました。その北前船によってもたらされた江差追分などの伝統芸能や生活文化が数多く伝承されていることから、北海道文化発祥の地とも呼ばれています。現在もその文化は江差の町並みに色濃く残っており、歴まち地区『いにしえ街道』には明治初期まで盛んに行われた檜材とニシンの取引で栄えた問屋、蔵、商家、町屋、それに社寺などの歴史的建造物や史跡、旧跡が数多く立ち並びます。
 
 姥神大神宮の創立についてもニシンが関係しています。姥神大神宮の創立は、社伝によると、1216年又は1447年に江差の海辺・津花町に創建されたと伝えられています。津花の浜には「折居様」と呼ばれる老姥がおり、ある春先、折居は神島(カムイシリ=今のかもめ島)から光が発せられているのを見て驚き、光の源を訪ねて島に渡りました。島には老翁がおり、「この中の水を海に撒くと、ニシンという魚が群れになってやって来る」と、彼女に瓶子を授け、その瓶子の水を海に撒いたところ、海水が白色に変わりニシンが群来して人々を飢えと寒さから救ったと云われています。村人が礼をしようと折居を訪ねたところ、彼女はいつのまにか姿を消しており、庵に残されていた神像を「姥神」として祀ったのが姥神大神宮の始まりと言われています。 

瓶子岩。折居が神から授けられた瓶子が形を変えたものだという。

狂ってしまった憧れのステップ

姥神大神宮渡御祭は、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、令和2年度、令和3年度と2年連続で中止となってしまいました。この中止は町から賑わいを奪ってしまうだけでなく、子供から大人に至るまで、祭の担い手にとってのステップアップを狂わせました。
 
「江差のお祭りというのは、山車を曳いている子供が太鼓を叩いている上級生を見て、羨ましい、かっこいいと感じて、小学生になったら太鼓叩こうってなって、そして太鼓を叩くようになったら笛吹いている人を見て、中学生になったらやろうと思うんです。そして笛をやるようになったら次は、高校生が山の上で電線を取る線取を見て、また憧れる。その順番が2年なくなったことで狂ってしまった。」(磯田さん)
 
「線取の人は山車の舵とってる人に憧れて、舵をとってる人は運航する拍子木を叩く人に憧れるという、上を目指してループするっていうかね。そういうのががっつり狂ったからね、高校生だけじゃなく大人も狂った。」(林さん)
 
中でも担い手の階段を上り始めた子供達にとって、この2年間の中止は大きいものでした。江差っ子は祭り囃子を聞きながら、夜遅くまで祭りに参加する中で、輝く担い手に憧れを抱き成長していきます。そんな江差っ子にとって、今回2年連続で中止になってしまったことは、やりきれないものだと磯田さんは話します。
 
「子供たちの方がフラストレーションはたまってると思う。好きな子はイメージトレーニングしてるよ。2年連続中止になって、子供たちは納得してないのかもしれないし、どっかでなんかやりたいと思ってるのかもしれない」(磯田さん)

太鼓を叩く子供と、線取を行う高校生

中途半端ではない、「普通の祭り」がやりたい

しかし、中止がもたらした影響はマイナス面だけではありませんでした。
 
「山車って結構痛むんですよ。車輪一個とっても、直しに出したら何カ月・何十万とかかるから、修理するのに丁度いい機会にもなったと思う。(祭りが)出来るようになったら、よりいい状態でスタートできるようにしたい。」(林さん)
 
このブランクとなった2年間は、来年の祭りが万全なスタートを切るための、準備期間になりました。その来年の祭りに向けて、磯田さんは「普通の祭り」を行いたいと話します。
 
「まず普通にやりたい。例えばマスク・フェイスシールドしなきゃ駄目とか、横笛したら駄目とか、そういう規制がかからない、普通に今まで通りやりたい。それだけかな。中途半端になったら面白くない」(磯田さん)
 
2年間で溜まったエネルギーを発散するには、規制のある中途半端な祭りであってはなりません。ニューノーマルではなく、これまで通りの「普通の祭り」が戻ってくるのを、担い手は待ち望んでいます。

楽しさを全員で分け合う

姥神大神宮渡御祭は毎年町内外から多くの人が参加するお祭りであり、一時期は祭りになると町の人口が5倍になると言われるほどでした。しかし、昔と今では祭りの様子は大きく異なるものでした。
 
「昔と違ってバカ騒ぎじゃなくなったから、安心して参加できるようになったと思う。昔は喧嘩祭りみたいな感じで、夜は綱元にもつけないし、ただ見ているだけで面白くないから帰った。血を流して倒れている人もいて、それだけ熱かった。うちら小さいときからそういうの見ていて、やっぱりそうなっちゃうとつまんないじゃないですか。だからうちらが祭りの中心世代になった時に、つまんないからやめよう、楽しもうと変えたんです。だからみんな安心してみんな帰って来られるし、それを目標に1年頑張れる。」(磯田さん)

老若男女、様々な人が祭りに参加する

姥神大神宮渡御祭に幅広い世代の人が安心して訪れるようになったのは、担い手が「楽しい」祭りにしようとしたのが背景にありました。そしてその「楽しい」の共有は、かつて町に住んでいた人だけではなく、新しく来る人達にも向けられています。
 
「せっかく来てくれたんだから、楽しんでほしい。参加型ですよ。初めての人にも簡単な役割やってもらう。そのほうが入りやすい。」(林さん)
 
「祭りの準備段階から参加してもらって、なんとなく段階踏んでやっていくとはまっちゃうんだよね。その結果山車を引っ張るだけじゃなくてご祝儀を集めるとか、裏方の仕事をやって楽しんでる。なんでだろう。うちらが心底楽しんでるからなのかな。うちらが面白くなかったら来ないよね。」(磯田さん)
 
「楽しさ」を重視しながらも、それを独り占めせず、より多くの人と「共有」する。これが毎年多くの人たちが町外から参加してくるカギなのかもしれません。

「繋がり」が生んだ、最高の状態

出身者、転勤者など地縁を超えた、たくさんの繋がりが祭りを支えている

これから更に人口が減少していく江差町、そうした中で担い手は何を大事にしながら祭りを続けていくのでしょうか。
 
「大事にしたいことは、繋がりかな。本当に今の状態を続けていければいいよね。今の状態ってすごくいい状態だから。」(磯田さん)
 
「どこの町内を見てもいいように進化してるよね。」(林さん)
 
「確かに人が少なくなってるから、来てくれれば人手が助かるって部分もあるけど、やっぱり江差の祭りに来て、参加して、面白かったーってなって、また来年も来るわってなってくれるのが一番というか、そうなってくれたら万々歳ですよね。」(磯田さん)
 
370有余年に渡って受け継がれてきた姥神大神宮渡御祭。町内外含めて、多くの人たちと「楽しさ」を共有することで、祭りは最高の状態になりました。担い手不足などの課題はありますが、これまで得た「繋がり」を糧に、次なる400年の節目に向けて、次の世代に受け継がれていくはずです。
 
▽次回の祭の日時
姥神大神宮渡御祭
日時:8月9日、10日、11日
場所:北海道江差町

▽祭に関連するURL
江差町観光ポータルサイト
https://esashi.town/matsuri/page.php?id=17

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