海の祭レポート

【コロナ禍の海の祭】祭りのない喪失感と、祭りへの想いを新たな人へ伝える意味

釜石まつり(岩手県釜石市) 開催日:毎年10月第3金・土・日曜日

毎年10月第3日曜日を含む金・土・日に岩手県釜石市で行われる「釜石まつり」。1967 年市制施行 30 周年を機に、「尾崎神社例大祭」と「新日鉄石山神社例大祭」の合同祭として実施されたのが始まりとされます。中日には、尾崎半島にある尾崎神社本宮から船で市内にある里宮にご神体を奉遷する「曳き船まつり」が行われ、お召船を中心に、虎舞や神楽を乗せた十数隻の船が大漁旗をなびかせて釜石港内をパレードします。

令和2年度の釜石まつり

そんな釜石まつりですが、新型コロナウィルスの感染拡大を鑑みて、令和2年度は神事のみの縮小開催となりました。
尾崎神社の神輿渡御の担い手である「輿衆会」の川畑会長、平野副会長、篠宮さんにお話を伺うことが出来ました。
 
話し手 :輿衆会(川畑会長、平野副会長、四宮さん)
聞き手 :マツリズム(大原 学)

漁師たちの海への祈り、虎舞

「鉄と魚とラグビーのまち」と言われる釜石。世界屈指の漁場、三陸漁場を控えるとともに、大陸棚と典型的なリアス式海岸に恵まれ、古くから漁業が盛んに営まれており、現在でもイカ釣りや定置網等の漁船漁業をはじめ、アワビ、ウニ等の採貝採藻漁業、ワカメ、ホタテガイ等の養殖業を中心とする沿岸漁業が盛んに行われています。また、近代製鉄発祥の地として日本の産業発展を支えた「釜石製鉄所」と、「新日鐵ラグビー部」の活躍から醸成されたラグビー文化は市民に深く根付いています。
 
釜石の人々と漁業、そして海との深い繋がりは、釜石まつりでの曳き舟まつり(大漁祈願、海上安全を願う尾崎神社の海上渡御)からも感じ取ることが出来ますが、まつりを彩る民俗芸能からも探ることが出来ます。釜石の代表的な民俗芸能である「虎舞」は獅子舞の一種で、ふたりの男性が虎模様の胴膜を身にまとい、虎の頭を操りその動きを模して舞う伝統芸能です。その由来として「虎は一日にして千里行って、千里帰る」ということわざから、海から無事に帰る事を願い、虎の習性に託して踊った虎舞が沿岸漁民の間に広がっていきました。主に航海の安全に関する信仰として伝承されてており、古くからの海に対するに畏敬の念がこうした民俗芸能として残っているともいえます。

釜石まつりのない、釜石の一年

釜石まつりは例年通り10月第3日曜日を含む金・土・日に開催予定でしたが、コロナウィルス感染拡大防止のため神事のみの縮小開催を決断。曳舟まつり、神輿渡御、民俗芸能のパレードも取りやめられました。神輿渡御の担い手である篠宮さんは、祭り縮小開催になったことで、改めて祭りの意味を感じたといいます。
 
「(神輿を)ドンっと担いだときの身体の痛みとか、大きい声を出すとか、あとは毎年(祭りでは)日焼けするんですけど、烏帽子をかぶっているというのもあって、おでこから下だけ焼けて職場の人に笑われてしまったりしたんですが、そういうのもないなって。」
 
釜石まつりの中止は、釜石のまちに静けさをもたらすだけではなく、仲間たちとともに共有する特別な体験も失われてしまうものでした。川畑会長、平野副会長は祭りの中止について、次のように話します。
 
「祭りとなれば神輿を担いでお祭りに参加したいなという思いで今まで参加してきましたので、やっぱりずっと続いているものが出来ないというのはさみしい部分もあります」
 
「本当に拍子抜けした感じというか、ずっと楽しみにしていたものが途切れてしまったというか、緊張の糸が切れてしまったと感じています」
 
お二人とも、ずっと続いていた祭りが無くなってしまったことに対する喪失感を感じていました。釜石まつりのない、釜石の一年。あまりにも当たり前に染み付いてきた、この土地のリズムが狂ってしまい、どうすればいいかわからない状態だったのではないかと思います。

祭りを大事に思う気持ちを伝え、新たな担い手を増やす

人口減少、少子高齢化によって担い手が減っているのは釜石も例外ではありません。取材の中でも、そうした中で、輿衆会の方々も、昔ながらの人脈を活かした募集ではなく、SNSを活用するなどした新たなやり方でメンバーを募集する動きがあります。
 
「同級生を中心に声がけをしたりして、1人ずつ参加者を増やしていくという古典的な方法で私はやっていたんですけど、もう一人新聞社に勤めている会員がいらっしゃいまして、その方はSNSをバンバン使って、たくさんのお祭りに興味がある人に対して、釜石のまつり、沿岸のまつりに興味がある人はこの指止まれといった感じでメンバーを集めて、その方は来られなかった方もいるんですが10名近く集めていました。なので、古いやり方ではなく、その方を習って私もSNSを使っていきたいと思いました。」
 
しかし、担い手不足であるからといって、これまで市内の人で担ってきた神輿を外部の人に担がせることに対してあまり良くない感情を持つ人たちもいるのではないか。そういった疑問に対して会長の川畑さんは次のように答えてくれました。
 
「釜石市の出身者で神輿を担げればというのが私の理想ですが、現実的にはそれが実現できませんので大槌町だったり、マツリズムさんだったり他の方々の力を借りなければ、祭自体が成り立たないって言うことも現実としてありますので、私としては市外の方であっても真摯に神輿を担いで頂ける方であれば大歓迎で、今後も受け入れたいと思っています。」
 
誇りある地域の祭り。ヨソモノが、そこに入っていく際には、その地域と祭りに対するリスペクトが必要です。そこに受け継がれる地域の人たちの<熱い想い>を、ヨソモノたちも共有して、体験できれば、きっと新しい担い手となってくれるはず。だからこそ、担い手の方々の<熱い想い>をコロナ禍の状況でも冷めさせず、新しいツールも使いながら伝えていく方法を考えていきたいと思います。

 

レポート:藤井大地(マツリズム学生インターン)

▼情報
 
▽次回の祭の日時
釜石まつり(岩手県釜石市)
日時:毎年10月第3日曜日を含む金・土・日
場所:尾崎神社、山神社ほか釜石中心部・釜石港内など
 
▽祭に関連するURL
「釜石まつり」【かまなび】釜石観光物産協会公式サイト
http://kamaishi-kankou.sakura.ne.jp/wp/matsuri

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